■継ぎたくても継げない「後継者問題」

 さらに、全国の銭湯に共通する深刻な問題がある。設備の老朽化だ。

 日本政策金融公庫の最新調査では公衆浴場の約半数が「店舗施設の狭隘・老朽化」を経営上の問題に挙げている。古くなったボイラーや配管を直そうにも、工事費が跳ね上がっているため、ままならないというのだ。

「建築や改修にかかる総額は、20年前に比べて2倍、3倍になっているケースもあります。助成があっても“じゃあ直そう”と簡単には踏み切れないんです。東京都の場合は、燃料費の他か、耐震化などへの助成もあります。ただ、燃料費助成は月に数万円程度ですし、区によって支援にも差があります。今、一番重いのはやっぱり設備ですね」(同)

 そして、設備と並ぶもう一つの難題が、経営者の高齢化と事業承継だ。

 実は、銭湯業界を見回してみると、「人材不足」というのは当てはまらない。

 2024年に東京都浴場組合が行った『銭湯の担い手養成講座』には、わずか16人の定員に対して約100人の応募があった。他の斜陽産業のように、「なり手がいない」というわけではないのだ。

 ところが、ここにも銭湯ならではの難しさがある。

「銭湯は家族経営が多く、店舗と自宅が一体になった造りも珍しくありません。釜場や機械室を通らないと自宅に入れない店もあって、後継者がいないからといって、簡単に銭湯部分だけを第三者へ引き継げないんです」(同)

「継ぎたい人」はいる。それでも「継げない店」があるというわけだ。

 だが、東京都は2025年度から、廃業を考える銭湯と新たな担い手をつなぐ『承継マッチング』を開始。スタート後、約20軒の浴場から相談希望が寄せられ、今後の展開が期待される。

 前出の中井氏は、しみじみとこう語る。

「スーパー銭湯が繁華街の高級レストランだとしたら、銭湯は近所の町中華みたいなものです。前者にはイベント感というか、訪問の前に気構えが必要ですが、後者のほうは仕事帰りにフラッと立ち寄れる気軽さがある。行きつけになると、常連さんとの交流も生まれるという利点もあるので、高齢化社会を控えた今、もっと活用されてもいいと思っています」

 近所の「いつもの湯」を未来に残せるか。銭湯の正念場は、これからだ。

伊東正博(いとう・まさひろ)
東京都公衆浴場業生活衛生同業組合の常務理事。
東急大井町線「中延」駅下車、徒歩2分の老舗銭湯『中延温泉松の湯』(東京都品川区戸越6−23−15)オーナー。

中井仲蔵(なかい・なかぞう)
1968年、富山赤十字病院生まれ。普段は某中小企業に務めつつ、こっそり雑誌やウエブ媒体に原稿を書くコラムニスト。東京で営業中の銭湯419軒すべてに入湯した銭湯マニアで、他にも歌舞伎や文楽(人形浄瑠璃)などの古典芸能から、アメリカン・コミックス、映画まで、コラムのジャンルは多岐にわたる。