武田鉄矢が、心を動かされた一冊を取り上げ、“武田流解釈”をふんだんに交えながら書籍から得た知見や感動を語り下ろす。まるで魚を三枚におろすように、本質を丁寧にさばいていく。
現代短歌を集めた短歌集『短歌ガチャポン、もう一回』(穂村弘著・小学館)を題材に、短歌について語ってまいりましたが、今回が最終回。
まずは大人のセンスにあふれる一首を紹介したいと思います。実に味わい深いです。
夏が終わる
終わると夏は一瞬で
一番遠い季節になった
(石川明子)
これは私、すごく分かる気がします。秋はゆっくり冬になっていくんですよ、だんだん寒くなっていく。冬はゆっくり春になるんですね、徐々に暖かくなっていく。春は春で梅雨を間に挟んで夏になるんですが、夏は「あ、秋が来た」と感じた瞬間に、もう終わるんですよ。どこか、その辺を歩いていて涼風一発、頬をかすめて「秋だなぁ……」と思うと、その瞬間にもう夏は終わって、一瞬で一番遠い季節になってしまう。
秋を意識した瞬間に、あんなにも眩しかった「夏」が幻のように感じられる。(中略)そういえば、恋が終わると恋人は「一瞬で一番遠い」存在になる。ふと、そんなことを連想した(穂村弘. 『短歌のガチャポン、もう一回』. 小学館, 2025=以下同)
選者の穂村さんもロマンチックに解説しておられますが、夏という季節は秋を感じた瞬間、幻のように遠ざかっていってしまう。そして夏の恋も夏という季節と同じように、終わった瞬間、あっという間に一番遠い恋になってしまう。
夏の失恋がすごく強烈なのは、「さようなら」と口にした瞬間、その人が一番遠い人になってしまうという距離感からくるんでしょうね。秋の失恋も春の失恋も、去っていく人は季節が移りゆくスピードと相まって、ゆっくりと遠ざかっていくけれど、夏って「さよなら」って言われた瞬間に、去年の恋に思えるほど遠い季語になってしまう。だから、歌にしやすいんですよね。J-POPに夏の恋歌が多いのは、そういう理由なんじゃないかな。
この一首に表れている日本人の季節観。実に細やかな感性というものが「日本人だなぁ」と私は感動しました。