■手を洗っただけで刑罰の評定に変化
話が難しくなってきましたよね。ここでひとつ、例を出しましょう。
実際に身体がどのくらい心を動かすかを示すデータがあるそうです。イギリスの心理学者のシモーヌ・シュナル博士が行った実験で、すべての参加者に嫌悪感を催す映像を見せたあと、半数の参加者は石鹸で手を洗ってもらいます(残りの半数は手を洗わない)。
そのうえで、ある犯罪を犯した人に、どのくらいの刑罰を下すか評定してもらった。すると……驚くことなかれ、手を洗った人は罪を軽めにし、洗わなかった人は重い罪を着せたがる傾向があることがわかった。
どうやら石鹸で手を洗った人は身体の不快感が軽くなったことが、判断に影響したようです。
手を洗うという身体的行為が心理面、つまり心にこれほど影響を及ぼすんですね。身体の声は無意識のうちに心に届いているわけです。
筆者はこう書いています。
このように、感覚や感情は知の営みにとって大きな影響力を持っているといえるでしょう(同)
人の心の動きは、無意識という広い海に浮かんでいるブイのようなもので、そのブイが上下に揺れているのを見て、「あ、波があるんだ」と気付くことができる。つまり皮膚で感じたことが脳に伝わって思考(心)ができる。
頭で考える前に身体でまず感じる。そのためにはどうすればいいのか。山口先生はすごくシンプルなことをおっしゃっている。
それは、「身体を動かすこと」である。ただそれだけ。私たちは考えて動いていると錯覚していますが、正しくは逆。「動いて感じて考える」だそうです。
例えば、ある程度人生を経験した人は「皮膚感覚で分かる」ことってありますよね。
これは現場に行って、その場の空気感や雰囲気を皮膚、つまり身体で感じ取ること。
セックスでも言いますよね、「あの人とは肌が合う・合わない」とか。これも身体を触れ合わせることで、相性がいいか悪いかということが直感的に分かるわけですね。男女は特にね。
このような判断は冷静に頭(脳)で考えて出た答えではありません。頭で考えるだけでなく、身体を動かして皮膚で感じることで、勘が生まれる。
ネットでつながった闇バイト。そりゃ自分が何をしでかしているかの感覚がつかめないわけです。
現代社会こそ、皮膚感覚を大事にしないといけないんじゃないだろうか。どうかご同輩、誤った判断をしないためにも、もっと身体の声を聞いてみましょう。
心身の不調を抱える人が増えるなか、身体心理学(健康心理学)の分野に注目が集まっている。本書は腸・皮膚・筋肉に特化して、身体が持つ無意識のうちに働く治癒力を科学的知見から明らかにする。著・山口創、さくら舎

好評連載中の武田さんの新刊『花咲けじいさん 人生後半の教科書』が好評発売中!
長寿でめでたい──とは言うが、年を取ると不安や心配事も増える。そんな貴方へ、そしてこれから歳をとる方へ、喜寿(77歳)を迎えた武田鉄矢が贈る「老いの教科書」。ボケも孤独も夫婦関係も…読むだけで人生を軽やかになる一冊。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。