丹精込めて育てた盆栽が、ある日、忽然と消える──。今、全国各地で“盆栽泥棒”の被害が相次いでいる。

「今年6月には埼玉県川口市の盆栽園で黒松など約20鉢、計約300万円が盗まれました。愛媛県四国中央市でも今年8月に50~60年かけて育てられた“赤石五葉松”など約50本が根こそぎ持ち去られ、被害額は約500万円。もはや単なる庭先の植木泥棒と侮れる金額ではありません。その多くは外国人なども関与した組織的な犯行と見られています」(全国紙社会部記者)

 背景にあるのは世界的な“BONSAI”人気だ。日本からの盆栽輸出額は2024年で約9億円。日本小品盆栽協同組合理事長の三浦裕貴氏が背景を解説する。

「もともと盆栽を芸術品として高く評価していたのは、伝統を重んじるヨーロッパの人たちでした。その後、アメリカや中国でも人気が高まった。海外で値段が上がったことで、盗んで売れば金になると考える人間が出てきたわけです」(三浦氏=以下同)

 しかも盆栽は屋外で育てるため、室内のショーケースに保管されている宝石類や高級時計などと違って持ち去りやすい。盗品がSNSを通じて海外で売られるケースは増加傾向にあるという。

「買う側は盗品だと知らないんです。海外の愛好家がSNSに写真を上げ、それを見た日本の持ち主が盗品だと気づくこともありますね。盆栽はそれぞれ枝ぶりが違いますから、当事者なら一発でわかるんですけど」

 それにしても1鉢が、ときには数百万円も値がつくとは驚くばかり。だったら1000円ほどの苗木を買ってきて、それをベランダで育てれば大金に化けるのでは? 定年後の小遣い稼ぎどころか、夢の“一鉢千金”も狙えるかもしれない。

 だが、こうした素人の皮算用に対して三浦氏は「いやいや、現実には難しいですよ」と苦笑いを浮かべる。

「高く売れる盆栽を作るには、それなりの技術とセンスが必要。盆栽には評価の基準や相場が明確にありますから。1000円で買ったものが、適当に育てているだけで10万円になるという話では決してありません」

 そもそも盆栽の値段は、どのようにして決まるのか?

 まずは樹種。盗難事件でも名前が挙がる黒松や五葉松など、松は高額取引の対象になりやすい。ただし、同じ松でも値段はピンキリだという。

「価値を左右するのは、まず姿形と古さです。長い年月を生きてきた木が、小さな鉢の中で美しい姿に整えられている。それが盆栽の魅力なんです。さらに枝を切った跡がきれいに処理されているかなど、細かな部分も値段に反映されます」

 つまり樹種を見極め、年月をかけて剪定し、枝ぶりを丹念に整えなくてはいけないというわけだ。単に大きく育てればいいわけでも、放っておけば札束に化けるわけでもない。

「100万円、200万円と値段がつく盆栽は、専門家が見れば細部まで手が入っていることがわかります。初心者がその良し悪しを判断するのは簡単ではありません。何より一番の問題は時間がかかること。10年、20年単位で丹念に育てなければいけないんですよ」