■『silent』の大ヒットが今期のドラマに影響

 前クール、2022年10月期のドラマでは、川口春奈(27)主演、Snow Man目黒蓮(25)が相手役を演じた『silent』(フジテレビ系)が社会現象を巻き起こす大ヒット。TVerなど配信メディアでの見逃し配信再生数が1話ごとの平均で約600万回再生されるという快挙を成し遂げた。

「恋愛ドラマはヒットしないと言われている昨今、直前に放送された『silent』が大ヒットしたために、どうしても今期の恋愛ドラマは比べられてしまいますよね。もしかしたら企画の時点では恋愛ものを真っ向勝負で作りたかったけど、恋愛だけだとヒットしないから……という点からファンタジー、ミステリーや生と死、年の差恋愛などといった要素も盛り込んで作られたのかな、とも感じました。

『夕暮れに~』はドタバタコメディ感がありつつも、綺麗な映像と美しい俳優さんたち、素敵な音楽が合わさって透明感のある雰囲気に仕上がっています。そうした画面の綺麗さ自体は『silent』っぽくはあるのですが、『silent』は過剰な言葉は使わないで、登場人物がお互いの気持ちを慮っていく。

 それに対して『夕暮れに~』では、脚本家の北川悦吏子さんらしい饒舌な会話が小気味いいですよね。ただ、現代では“誰もがそんなに上手く話せるわけじゃないし、そういう人がよしとされる状況はしんどいし、自分の意見をグイグイ主張するのも憚られる”という感覚もあり、そこに『silent』が刺さったのではないでしょうか。

 今期の恋愛ドラマは『silent』とはベクトルが真逆に行くのかな、という感じがしていて、“今後、時代がどっちの作風を選ぶのか”という話になる気もしています」

 それぞれ全く異なる魅力をもつ『星降る夜に』、『夕暮れに、手をつなぐ』、『100万回 言えばよかった』の3作品。いずれかの作品が頭1つ抜け出して『silent』級の大ヒットを巻き起こすことはできるのだろうか?

■木俣冬(きまた・ふゆ)

ライター、インタビュアー。ドラマのノベライズ作家として、『どうする家康』(NHK出版)、『コンフィデンスマンJP』(扶桑社)などを執筆。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社)、『ネットと朝ドラ』(株式会社blueprint)ほか多数。日本ペンクラブ会員。

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