■“勧善懲悪”の『半沢直樹』からの進化――

 吉田さんの口から飛び出したのは「ジャパンメイドドラマとしてのクオリティーの高さ」だった。近年は韓流ドラマに押され気味でなかなかヒット作にも恵まれないドラマ業界。その中で『VIVANT』は頭一つ抜けていたと吉田さんは話す。

「主演の堺さんを筆頭に、役所さん、阿部さん、二階堂さんといった豪華俳優陣が脇を固めました。海外ロケも敢行していて、圧倒的スケール感を物語にもたらした。一方で日本の風景、伝統を伝えるシーンもあり、海外展開も視野に入れたグローバルな作品を目指すという気骨も感じる」

 木俣さんも吉田さん同様、最大級のドラマとスケール感の大きさを高く評価する。

「見たこともないような広大な場所で日本の俳優が動いている姿を地上波のドラマで見せたのは、素直に評価したい。展開の奇想天外さや俳優の動きがまるで漫画かアニメのようで、それを人間の肉体をもってドラマでやり切ったのは斬新だった」

 一方、今作は『半沢直樹』以降、放送されてきた日曜劇場の“勧善懲悪”スタイルから脱した作品でもあったと吉田さんは語る。

「日曜劇場は『半沢直樹』以降、正義感のある主人公が悪にまっすぐ立ち向かうようなわかりやすさが、物語にテンポを生み視聴者を惹きつけていた。でも、『VIVANT』は主人公がただただ善人で使命を負う、というありきたりな展開からはズレている。登場人物には裏も陰もある。まさに、ドラマのキャッチコピー“敵か味方か、味方か敵か。”通りの仕上がりになっていましたね」

 木俣さんもまた、『VIVANT』は『半沢直樹』以降、受け継がれてきた“福澤ドラマ”からの脱却だと語る。

「福澤監督のドラマにはどこかマッチョ感みたいなものがあり、それが売りのひとつでもあった。典型的なのが大いに話題となった『半沢直樹』のセリフである”倍返し”や”土下座”です。ただ、ハラスメントが問われる今の時代、それはもう難しい。

 それを意識してなのか、『VIVANT』ではヒューマンな部分に訴えるような演出が増えたように思います。たとえばベキ(役所)が乃木とノコル(二宮)の“お父さん”であるとか、乃木と薫(二階堂)の恋愛シーンも視聴者に情緒的な刺激を与えてきていましたよね。それも新しい点だったのかな」

 これまでの“福澤ドラマ”から考えると予定調和ではない作品作りが、『半沢直樹』以降の日曜劇場に一石を投じていたというわけだ。まさに令和の時代に合わせてアップデートされたともいえる『VIVANT』は“『半沢直樹』3.0”とも評せよう。