■視聴者に現代コミュニケーションのリアルを突きつけてくる『いち花』
「『いち花』は、主人公たちの恋愛を描かずにヒューマンドラマをしっかりと描く内容になりそうですが、親子関係は“前作”『silent』をよりブラッシュアップした印象も受けますね。
『silent』は恋愛が主軸ではありましたが、若年発症型両側性感音難聴を患ってしまった佐倉想(目黒)を気遣う母・律子(篠原涼子/50)との関係修復も描かれていました」
律子は想が病気をきっかけに孤立しているのを心配したり、病気が遺伝性である可能性が高いと言われたことから、自己嫌悪に陥ったりと、さまざま思い悩む一般的な母親、とも言えそうなキャラクターだった。
しかし、想が律子を気遣うあまりにしっかりと話せていなかったことも影響しているとはいえ、過保護になりすぎてしまっているところもあった。紬(川口)の影響で想が高校時代の友人と関わりをもつようになったことに不安を覚えて、友人との交流に難色を示したこともあり、視聴者からは、
《心の音も聞こえない、想にとって静かな世界にしてきたのは母親なんだよな。自己満足。耳が聞こえなくなった想を必死に籠の中で守ろうとしている、それが想にとって正しいことだと信じて疑わない感》
《想が聴こえなくなったのは身体の病気のせいだけど、他人とが関わらなくなったり喋れなくなったのは精神的なもの。母親がそれまでの人間関係切るとか駄目でしょ》
など、序盤は辛らつな評価も多かった。
回を追うごとに少しずつ律子と想の関係は修復し、最終的に律子は、
「親だからってなんでも話さなきゃだめってことないし、親だから言いたくないこともあるだろうし。それでいいんだよ。困ったとき思い出したら相談してくれればいいんだよ」
「心配はする。心配されるの嫌なの知ってるけど」
と、優しく想に声をかけていた。
「篠原さん演じた想の母・律子は優しい母親でしたが、それでも親子関係の問題はあった。それが恋愛ドラマではない『いち話』では、もっと濃く、ディープに描かれることになりそうです。
今田さん演じる夜々、多部さん演じるゆくえ、松下さん演じる椿が抱えている母親とのコミュニケーションの問題は、どこかで聞いたような普遍的なものだと考えられます。もちろん、ディテールでオリジナル感は出していくのでしょうが、多くの視聴者が感じてきたこと、経験してきたこと、少なくとも聞いたことのある親子間の、普遍的で、視聴者にとっても他人事ではない問題を、『いち花』は『silent』以上に掘り下げていくのではないでしょうか。
『いち花』は『silent』と比べて、視聴率は大苦戦していて、第3話ではついに世帯4%台に落ちてしまった。しかし、チャレンジングな作風は評価されていて、見逃し配信サービス『TVer』のお気に入り登録100万突破も、今期の民放ドラマでは最速記録を達成しています。
“深く考えさせられる”といった好意的な声も多いし、視聴率が良くなくても、しっかりと視聴者の心に残る作品になるのではないでしょうか」
ここまでは、恋人や友情など「2人組」にフォーカスしたドラマが描かれてきた『いち花』。第4話以降は、親子という「2人組」が深く描かれていくのだろう――。