■今も進化を続ける草なぎ剛

 また、《当事者の俳優さんたちの演技が素晴らしくて実にリアリティがあった》《無音に思えるシーンが多いのだけれど、衣ずれや足音、わずかなノイズ、それらの空気感が実に生々しかった。限定されたBGMは音数も少ないのに極めて美しかった》など、当事者である、ろう・難聴の俳優たちや、繊細な演出への称賛の声も多かった。

 凄みすら感じた草なぎの演技は、当事者との共演で得たものも多いようだ。『WEBザテレビジョン』のインタビューでろう者の方との芝居について問われたとき、草なぎは「皆さんは芝居をしなくても役そのもので、一度もやったことがない人も成立させている。自由というか、そのままな感じがとても楽しく、何か上手いとか下手とか関係ないと気付かされ、演じることの楽しみの幅が広がった」と語っている。

 草なぎは20年公開の映画『ミッドナイトスワン』に主演し、各映画賞で主演男優賞を受賞。21年にはNHK大河ドラマ青天を衝け』で徳川慶喜を好演し、23年1月期の『罠の戦争』(フジテレビ系)で、6年ぶりに民放の連続ドラマに復帰すると、23年のNHK朝ドラ『ブギウギ』に、舞台『シラの恋文』と切れ目なく話題作に出演を続けている。

 歴史上の偉人、政治家、トランスジェンダー、有名作曲家と役柄の幅も広い草なぎだが、そのキャリアをして、上記インタビューでの《演じることの楽しみの幅が広がった》という発言には驚きしかない。草なぎは努力家として知られているが、本人はかつて《自分が努力をしていると、みじんも意識したことがない》とも発言している。現在の境地は、そんな無意識の努力の積み重ねの結果だろう。

 旧ジャニーズ系どころか、日本の俳優の中でもすでにトップクラスの位置にいる草なぎ。16年末のSMAP解散以来、たもとを分かった木村拓哉(51)は、自ら仕事をテレビ局に逆オファーしていると、一部週刊誌で報道があったが、2人の差は随分とついてしまったのかもしれない。(芸能ライター/坂上五郎)