■伊藤沙莉に続く存在として――

 その一方で、愛助(水上)を「信用できない」と執拗に疑っていた小夜に、《小夜がストレス。素人の顔芸と張り芸見せられてるみたいで、毎朝ウンザリ…富田望生さんって、こんなだっけ?》などの不満の声もあった。しかし、それは富田が振り切った演技をしているためで、それだけ富田がスゴいのだ。

 賛否の声が上がるほど、富田は喜怒哀楽を全力で表現している。脚本の足立紳氏は『ブギウギ』について、《多くの喜びと怒りと悲しみが、一緒にやってくるのが人生だ》と語っていたが、小夜はその世界観を体現した存在。感情の振り幅も激しく、笑い、泣き、怒り、悲しむ小夜は『ブギウギ』を象徴する、裏の主役と言ってもいいだろう。

 切れ目なく話題作に出演している富田は、23年も『だが、情熱はある』で、南海キャンディーズしずちゃんを完コピした圧巻の演技を披露。今期の『コタツがない家』(ともに日本テレビ系)では、小夜とは正反対の控えめで純情な花嫁役が好評だった。驚くべきは、その演じる役柄の幅の広さだろう。

 若くして“カメレオン俳優”と称される富田は、今後、朝ドラヒロインに選ばれるかもしれない。かつての朝ドラは、明るく清純なタイプが多かったが、最近はさまざまなタイプが起用されている。

 富田と同様にどんな役でもこなす伊藤沙莉(29)も、その演技力に加え、物語イメージに合致したからこそ、24年前期の朝ドラ『虎に翼』のヒロインに選ばれたのだろう。ドラマはその時代に強く影響を受ける。現代が持つ多様性が影響しているのは、間違いない。富田にも十分に可能性があるのだ。

 物語は今後、戦争の状況悪化、愛助の病状など、厳しい展開になりそうだが、東北なまりで感情をむき出しにして、七転八倒しながらスズ子(趣里)を支える小夜に注目したい。(ドラマライター/ヤマカワ)