■専門家も「説明が不十分」と指摘
慶大がワタミと組んでスタートさせようとしている女子学生向けの食事支援。X上には《「女子」に限る理由は全くわかりません》と大学側の説明に対して疑問の声を抱いたユーザーの意見も少なくないのだが、就活事情や労働問題に詳しい千葉商科大学准教授・常見陽平氏も「率直に、なぜ女子だけ支援が手厚いのかという説明が不十分」と問題点を指摘する。
「まず社会的な総論として、男女間に賃金格差があり、その差は少しずつ縮まっているとはいえ、まだまだ女性のほうが低い状況があるのは確かです。内閣府が調査したデータによれば、2021年時点で男性一般労働者の給与水準を100としたとき、女性の給与水準は75.2にとどまります。他にも非正規雇用の比率は女性のほうが高いなど、男女格差が社会の中に存在することは明らかです」(常見氏)
ただし、今回は社会人ではなく、あくまでも学生を対象とした話。「なぜ、女性に対する支援が必要なのかの論拠が示されていないのが、慶應大学の学生支援の問題点だ」と常見氏は話す。
「あくまで例ですが、大学生活においても女子のほうがアルバイトで稼げる給料が少ないとか、セキュリティ面を考慮した結果、“女子のほうが住居費がかかる”というのならデータを示してもらいたい。女性のほうが平均的にこれだけ高い家賃を払っている、というように具体的な背景とデータを明記してくれたら、新入女子学生だけを限定とした支援を行なうのも納得できます。
“明らかに女性が食費に困っている”という実態が慶大のプレスリリースには描かれていないので、唐突感があり、さまざまな憶測や批判を呼んだのではないでしょうか」(前同)
さらに常見氏は「ミールキットと弁当(スマートプレート)という支援内容の違いも気になる」と言う。
「支援(1)はミールキットではなく弁当でもいいわけですよね。考えすぎなのかもしれませんが、ミールキット=料理をするのは女性だという概念をもとに、支援内容を決めたのならば、これぞ旧来の価値観の押しつけです。女性だからといった性別を押しつけるような内容のCMは、過去に何度も炎上してきましたよね」(同)
もちろん、慶大が学生向けに提供する食事支援は、貧困に悩む学生の大学生活におけるセーフティネットになるのだろう。そんな中、常見氏はこう続ける。
「学生の食事生活を支援するのがダメだとは決して言いませんが、”なぜ、これがこの人たちに必要なのか”ということが、プレスリリースを読んでも書いてありません。もっと言えば、慶應大学はなぜワタミと組んで学生支援を行なうのか、という点も説明不足。支援に使われる費用は学費から捻出されている可能性もあるわけですし、これでは学内外から疑問の声が上がるのも致し方ありません」(同)
なお、なぜ支援内容を”女子新入学生”とその他の学生で切り分けたのか、支援(1)と支援(2)の内容の違いの根拠などについて慶應大学に問い合わせたところ、支援内容を管轄する「慶應義塾協生環境推進室」からは回答なし。広報室は“回答は差し控えさせていただきます”とのことだった。
常見陽平
リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年より准教授。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。
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