■“SNS疲れ”にフィットする『人の財布』の特異性

 SNS上で注目を集めようと人気ゲームやエンタメ作品の考察を投稿するユーザーが増えているのは事実。とはいえ、人の意見ばかり気にしてしまい、“SNS疲れ”が出てきている人がいるのも確かだ。そのうえで、前出の原田氏が『人の財布』の特異性について分析する。

「考察、謎解きにユーザーが慣れたなかで、『人の財布』が他とは異なるのは、ネタバレ禁止な点です。SNS上に“答え”はなく、こちらから謎解きをして、ネット検索をしなくてはいけないような主体的・能動的な行動がこのゲームには求められる。正解にたどり着けば、作中の人物とコミュニケーションが取れるのも刺激になる。正解にたどり着くまでに時間がかかるというのも、“すぐ答えにたどり着ける”時代にはかえって新鮮なポイントです」(原田氏)

 また、リアルな自分の生活とゲームが地続きになっている点も参加者にとっては魅力だと語る。

「財布という日用品を使った謎解きゲームという点も、ゲームのリアリティを増幅させる仕掛けとして機能しています。参加型ゲームは一般的に複数人でプレーをする前提で作られていますが、1人で楽しめるのも自由度が高い。ゲームと参加者の生活が交錯するのが魅力だと思います」(前同)

 リアルの生活に刺激をもたらしてくれる、新しい“没入型”ゲーム『人の財布』。人気に火がついた影響もあって、一部SNS上での“実況・ネタバレ”が解禁されたが、いずれにせよ制限つき。謎が謎を呼ぶ興奮は、まだまだ続きそうだ。

原田曜平
慶應義塾大学商学部卒業後、広告業界で各種マーケティング業務を経験し、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。 2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に「寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生(角川新書)」「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?(光文社新書)」など。