■牛丼チェーン店が「1500円超え」メニューを展開する“事情”

 吉野家の挑戦ともいえるダチョウビジネス。小売・サービス業界に詳しい経営コンサルタントの岩崎剛幸氏は、「吉野家が今回のダチョウ丼を売り続けるかどうかは疑問」という見方を示しながらも、こう続ける。

「吉野家は“畜種分散”を企業テーマとして掲げ、牛肉以外の肉にも視野を向けています。近年牛肉は仕入れ値が5~8割は上がっていると言われ、今後仕入れが難しくなる可能性が高いという事情も無視できないでしょう。

 そうしたなか、吉野家は以前より自社でオーストリッチ事業としてダチョウを畜産していて、今回、ダチョウのオイルなどを使い、新規事業としてコスメ事業に参入することも発表しています。同社にとっては新規事業となりますので、軌道にのせていくにはある程度の時間がかかると思います。吉野家に限らず、一般的に社内で新規事業が成功する可能性自体が高くないですからね……」(岩崎氏)

 吉野家は、オーストリッチ丼のターゲットを「年齢性別問わず、すべての皆さま」だとするが、岩崎氏は、競合となる牛丼チェーン店も最近高価格メニューを出していることを踏まえ、「牛丼チェーン店が、定食屋やレストラン、専門店など他業態からの客の奪い合いを始めている」と指摘する。

「たとえば松屋は『柔厚炙りチャーシューエッグ定食3枚盛』(税込1790円)、すき家は『特うな丼』(税込1590円)を提供しています。今は、もう安い価格帯だけで勝負ができない時代。他業態から客層を引っ張ってこないと売り上げを拡大できません。そのための高価格メニュー投入なのだと思われます」(前同)

 岩崎氏が続ける。

「500円の牛丼を食べる人にとって、1500~2000円のランチはたしかに高価格ですが、カフェやレストランでのランチはすでに1500~2000円ほどの価格帯になっている。そうしたものを日頃食べている人たちからすれば、手が出ない価格でもありません。

 また、牛丼は特に興味がないけど、ヘルシー路線なら食べてみたいという女性のお客さんや、健康意識の高い方がダチョウ丼をきっかけに吉野家へ足を運ぶ可能性もあると思います」(同)

 客層は間違いなく拡大しそうな吉野家のダチョウ丼には、《味はよい、けれど量に対しての価格は現時点ではまだ高い 一般的に広まるぐらいまで流通量増えるといいな〜》と期待の声も。今後、日本人がダチョウ肉を当たり前に口にする日は来るのか――。

岩崎剛幸
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。
「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
著書に『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)。
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