■対称的な『西園寺さんは家事をしない』と『海のはじまり』
愛する人を亡くしたシングルファザーが、新しい家族の形を模索する。そこまでは設定がかぶっているが、中身は極端なほどに違う。他者になんでも話そうとする『西園寺さんは~』に、話さないことで溝が深まっていく『海のはじまり』。西園寺さん(松本)は楠見の亡き妻の話を受け止めたが、『海のはじまり』の弥生(有村架純/31)は受け止められない、などだ。しかし、一番違うのは血縁に関するスタンスだ。
『海のはじまり』では、夏(目黒)が自分の子どもの海(泉谷星奈/7)、母親の水季(古川水季/27)に目を向けすぎて、彼女の弥生と別れてしまう。一方、『西園寺さんは~』では、西園寺さんも楠見(松村)も、血の繋がり、あるいは夫婦という関係をすっ飛ばして、家族を作ろうとする。過去に縛られる『海のはじまり』に対し、『西園寺さんは~』はもがきながらも未来に進もうとする。
話題となった横井(津田)の、麺つゆ用の出汁を取りながらの長セリフも、本作を象徴するようだった。「昆布とかつお節は出来上がった麺つゆに形としては残らない」「でも、味は必ず残っている。記憶の中に、心の中に。次に1歩を踏み出す勇気に」というのは、自分たちの状況を麺つゆにたとえ、過去を大事にしながらも前を向こうとするメッセージだ。
視聴者には月曜と火曜の2つのドラマを、比較しながら見ている人も多い。スタンスの違う2作から、あらためて家族というものを考えているという声もある。偶然とはいえ、相乗効果が起きているようだ。もし、話題作の『海のはじまり』と設定かぶりがなかったら、『西園寺さん』も全話世帯平均視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)が今期地上波ドラマで3位(第9話現在、シリーズ物を除く)という、ここまでの数字はなかったかもしれない。
いよいよ物語はクライマックス。X上で《次回予告、原作と流れが変わってて、どうなるのかかなり気になる…》と期待する声があるように、原作を読んでいても先が読めない展開になっている。西園寺と楠見がどんな家族を目指すか注目したい。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。