■王道恋愛ドラマがウケるワケ

 今作のポイントは、キャラを含めた設定(プロット)の巧みさだ。海里は7年前にボクシングの対戦相手が試合後に急死し、「人殺し」と言われることもある、いわくつきのイケメン。そんな海里とほこ美との恋愛と、ほこ美の人生の再生が描かれ、そこに、いい人キャラの当て馬・大葉(小関裕太/29)、怪しい存在のカメラアシスタント・相澤(倉悠貴/24)が絡んでくる。

 さらに、三角関係を予感させるボクシングジムのゆい。キャラが立っているが、ちゃんと絆のある、ほこ美の家族。視聴者サービスに毎回の海里のシャワーシーン。これでもかとドラマを盛り上げる要素が繰り出されるが、ゴチャゴチャすることなく上手く配分されている。だからこそ、見ていて主人公に思い入れができるのだろう。

 今期のGP帯ドラマは、『わたしの宝物』(フジテレビ系)が不倫もので、『若草物語』(日本テレビ系)が恋愛要素が入っているが、メインはお仕事もの。『マイダイアリー』(テレビ朝日系)も恋愛が入るが、青春群像のヒューマンドラマ。そんな中、本作は数少ない“きゅん”が楽しめる恋愛ドラマだ。

 最近の連ドラは、恋愛ものであっても、生きづらさ、繊細な感情表現をテーマにした、いわゆる意識の高いドラマがトレンドになっている。ある意味、恋愛ドラマの王道と言える『あのクズを殴ってやりたいんだ』は、それに逆行していると言っていい。

 しかし、とんがったドラマばかりが、ウケるわけではない。王道のドラマが好きな視聴者というのは、意外と多いのだ。『あのクズ』は本来の「火曜ドラマ」らしく、ラブコメならではの面白さを実感できる作品。今後も、ほこ美と海里の”きゅん”があふれる恋の行方をじっくり楽しみたい。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。