■『海に眠るダイヤモンド』に欠けているもの
日曜劇場といえば『半沢直樹』や『下町ロケット』のように、巨大企業を相手に仲間が力を合わせ戦うストーリーが多い。企業ものでなくても、『ブラックペアン』なら主人公自身の病気だったり、『アンチヒーロー』なら検察庁だったりと、乗り越えるべき敵が明確にあって、そこに向けて後半が盛り上がるパターンだ。
だが、『海に眠るダイヤモンド』には具体的な敵はいないし、あっても歴史的な社会問題なので、はっきり見えない。といっても、もちろん視聴者が懸念するような、単なるラブストーリーで終わらないだろう。
X上には、《小さい頃もらった空き瓶を大切に使い続ける素朴な女の子(朝子)が、東京で何もかも手にしながらも何もない孤独な老婆(いづみ)になっていく過程…それはたぶん経済成長から現代までの日本人の獲得と喪失の物語と重なるように描かれるはず》という声もある。
この考察の通り、おそらく、『海に眠るダイアモンド』で敵にあたるのは、端島を出て東京で生き延びてきた、いづみが抱えているものだろう。しかし、それは安易に乗り越えられる問題ではないし、はっきり見えてくるのもだいぶ先になりそうだ。
何かをやり遂げたり、逆転で盛り上がる、定番を愛する日曜劇場のオールドファンが離れてしまったのが、現在の数字につながっているのかもしれない。しかし、定番を外したからといって、『海に眠るダイアモンド』の出来が素晴らしいことには変わらない。終盤、現代につながっていく壮大な物語に期待したい。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。