■ラーメンの値段を上げずに客単価を上げる庶民派ラーメン店の工夫とは?
過去最多の倒産件数となったラーメン業界。コストが上がり続けている以上、提供する値段を見直さなければやっていけないが、「日本の国民食、大衆食」というイメージも根強く、価格転嫁はなかなか難しい。
ラーメンライターの井手隊長は、「今が過渡期ではないか」との見方を示す。
「原価率がどんどん上がってしまっているので、薄利多売のラーメン店はやはり価格を上げないことには続けていけないと思います。ただ、800~900円だったお店が1100~1200円に値上げすると客層がガラっと変わってしまうという声を、お店の方からよく聞くんですよ。消費者目線では『1000円を超えるならラーメンじゃなくてもいいや』と判断されてしまうのもわかるので、値上げしづらい空気は感じています。800~900円で提供してきたお店が一番大変でしょうね」
これが、いわゆるラーメン店における“1000円の壁”だ。
こうした状況の中で、「1000円オーバー」と「1000円以内」の両方のブランドを展開するところも増えてきているという。
「豚骨ラーメン専門店の『博多ー幸舎』はシンプルな『ラーメン』で950円ですが、同時に『ラーメン』を一杯750円と、少し安価で提供する『幸ちゃんラーメン』も展開しているんですよ。贅沢なラーメンと、日常のラーメンの2つの価格帯が共存するようになっていけるといいな、と思ってます。たとえば『日高屋』が1000円になることはないでしょうし、安いラーメンもなくなることはないと思うんですよね」
また「1000円以内」のラーメン店も、ラーメンそのものの値段を上げることなく客単価を上昇させるための工夫に取り組んでいる。
「特製ラーメンのような付加価値の高い高価格帯メニューをつくる店もありますが、サイドメニューに力を入れる店も増えているんです。卵かけご飯とかチャーシュー丼がなんか美味いぞと、サイドメニューの目玉をつくることで、ラーメンの価格は守りながら全体として1000円以上を使ってもらう。
あとちょっとした“裏技”ですが、キャッシュレス券売機の導入という方法も。初期投資はかかりますが、キャッシュレスに対応すると客単価が上がったという話はけっこう聞くんです。1000円札2枚を出すのは抵抗があるけれど、キャッシュレスだと案外さくっと支払ってしまう……という心理が働くのかもしれませんね」
原材料の高騰が落ち着いたとしても、原価率は平均で30~35%とされるラーメン業界だけに、提供価格の問題は今後もつきまとうことになるだろう。
「薄利多売のうえに、寝ずに働いてスープを一日中見て……という労働環境だと、職業として成り立たないですよね。人手不足もありますし。都心のラーメン屋では1000~1200円の店も増えてきましたけど、安価なお店も残りつつ、“美味しい店は1000円以上して当然”という価値観が広がっていけばいいなと思っています」
過渡期にあるラーメン業界。これからも「国民食」として愛され続けてほしいものだ。
井手隊長
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。著書に『できる人だけが知っている 「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム)。