■電子レンジは捨てられGoogleも禁止に
反コロナ、反ワクチンをきっかけに、彼女の政治やメディアへの不信感も止まらなくなり、その影響はともに暮らすAさんにも及ぶことに。
「ネットやSNSから得た情報こそ正しいと思うようになっているため、例えば、“電磁波は体に良くない”といった情報を鵜呑みにしてしまうんですね。そのため、電磁波を放つ家電……電子レンジなどは捨てられてしまいました。また、家の中にWi-Fiがあるのは体に悪影響を与えるという理由から契約を解除することに。彼女が反マスク、反ワクチンになってから、わずか1~2か月の出来事です」(以下「」はAさん)
動画制作などを手掛けるAさんにとって、自宅にWi-Fiがないというのは致命的だろう。「仕事に支障はなかったのですか?」と質すと、「セブンイレブンに行ってWi-Fiを拾うことでカバーしました」と笑いながら答える。家もあって仕事もあるというのに、“フリーWi-Fi”を求めてさまよっていたというのである。
「ファミリーマート、ローソン、あらゆるフリーWi-Fiを使ってみたのですが、セブンイレブンが圧倒的に早くて。あの3年間は、本当にセブンイレブンなしでは仕事が成立しなかったです」
また、“情報を抜き取られる”という理由からGoogleの使用も禁止され、「彼女から、ユーザーを追跡したり、データを収集したりしない(と言われる)検索エンジン『ダックダックゴー(DuckDuckGo)』を使うようにと言われた」と話す。ダックダックゴー――。まったく聞き慣れないこのブラウザを介して、Aさんも彼女もネットサーフィンをしていたそうだ。
「ただ、今振り返ると、彼女は『ダックダックゴー』からYouTubeにアクセスして情報を得ていたので、結局Googleに足を踏み入れているんですよね。それってダックダックゴーの意味があるのかなって。というか、ダックダックゴーって何なんだろうって。スマホに関しても、情報を得るために使わざるを得ないという判断で、都合の悪いことは目をつぶるクセがあったとも言えます」
そのため、彼女は価値観の合う都合の良い人たちと交流する機会が増え、「同席すると自分の方が間違っているのではないかと疑うようになってきた」とAさんは苦笑する。
さらに混迷を極めていくことになるAさんの周辺の環境については後編【「マクドナルドはご馳走」「風呂には塩と日本酒」それでも陰謀論彼女との生活が楽しかった理由】で伝える。
我妻 弘崇
1980年北海道帯広市生まれ。東京都目黒区で育つ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生(ピース、平成ノブシコブシ、ラフ・コントロールなど)として芸人活動を開始する。2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーランスのライターとなる。現在は、雑誌・WEB・広告問わず、幅広い媒体で執筆活動を展開している。著書に、消費者目線でキャッシュレス社会の歩き方を提案した『お金のミライは僕たちが決める』、 働きながら旅に出かけ、その経験を日常・仕事にフィードバックさせるスタイルを掲揚した『週末バックパッカー』(ともに星海社新書)がある。