武田鉄矢が、心を動かされた一冊を取り上げ、“武田流解釈”をふんだんに交えながら書籍から得た知見や感動を語り下ろす。まるで魚を三枚におろすように、本質を丁寧にさばいていく。

 大河ドラマ『べらぼう』の主人公“蔦重”こと蔦屋重三郎をテーマに、今から250年ほど前に花開いた江戸の出版ブームについて『蔦谷重三郎 江戸の反骨メディア王』(増田晶文・新潮新書)をもとに語っております。

 24歳で彗星の如く出版界にデビューした蔦重は、吉原遊郭のガイドブック「吉原細見」をヒットさせたりで、江戸の出版人として注目を集めていきました。

 それで満足しないのが稀代の出版プロデューサー蔦屋重三郎という男。「正本」と呼ばれる歌舞伎観劇のガイドブックや、当時庶民の娯楽の筆頭だった浄瑠璃の練習用の「稽古本」「往来物」と呼ばれる学習参考書などにも手を広げ、いわば“総合出版社”への道を歩み出します。

 そんな彼が、次に目を付けたのが“狂歌”でした。

 狂歌は和歌の詩形(五・七・五・七・七)で身近なテーマを詠む歌で、川柳と似ておりますが異なります。狂歌は川柳と違って“毒”を持ってないとダメなんです。辛辣、パロディ、ナンセンス、ユーモア……。穿ってないといけない。

「おお、上手いこと言うね!」っていうのがないとダメ。世間を斜めから覗き見て、真実を見抜き、しかも、その真実を笑うこと。

 知的でありながらも、馬鹿馬鹿しさにあふれた五・七・五・七・七が狂歌。

 蔦重は文化人や学者たちを集めて、狂歌を詠んで楽しむ“狂歌サロン”をつくり、狂歌集を出版。江戸の街に一大狂歌ブームを巻き起こします。