■FAを巡る人的補償の問題

 契約での揉め事といえば、11年オフ、ソフトバンクの杉内俊哉が査定方法への不信感を露わにしたFA宣言も忘れがたい。

「前年の契約更改でも、ねぎらいの言葉一つなかったことに彼は“優しいのは新規加入の人にだけ。携帯電話会社と同じだ”と、親会社を強烈に皮肉っていましたから、以前から不満を溜め込んでいたんでしょう。

 そこへきて、編成育成部の部長でもあった小林至取締役の“FAしても名乗りを上げる球団はない”発言もあり、堪忍袋の緒が切れたわけです」(前出の記者)

 この“失言”で、小林は世間から猛バッシング。その後、役職を引責辞任するハメにもなっている。だが、元ロッテの小林とは選手時代から親交のある愛甲氏は、こう言う。

「さすが東大卒なだけあって、あいつの頭の良さは尋常じゃない。元選手でもある、ああいうやつがフロントに入ってるってのは、選手にとってもメリットは大きかったと思うけどね。

 まぁ、なまじ頭がいいから“上から目線”と誤解されがち。関係性が築けていないと、居丈高に感じるところはあっただろうね」

 FAに付き物なのが、選手を獲得する球団から選ばれる人的補償だ。 

 23年オフ、西武・山川穂高のFA加入によって発生した補償の対象として、ソフトバンクのプロテクトから漏れた大ベテラン・和田毅の指名が報じられたのだ。

「18年に大野奨太が日本ハムから中日入りした際も、同様に岩瀬仁紀がプロテクト漏れ。すかさず指名した日ハムに対し、岩瀬は“移籍するなら引退する”と、これを公然と拒否している。

 本来なら、岩瀬の件が起きた時点で、選手会が音頭を取って制度の改善に動くべき。それさえできていれば、代替のような不本意な格好で甲斐野央(29)が差し出されることもなかった」(前出のジャーナリスト)

 一方、待遇改善の旗頭となるべき選手会の前に、大きな障壁として立ちはだかってきたのが、日本独自のオーナー会議の存在だ。

 とりわけ、長きにわたり巨人を率いてきた“ナベツネ”こと故・渡邉恒雄氏の暗躍ぶりは、球界全体を牛耳る“盟主”そのものだった。

 21世紀に入って、その端緒となったのが、02年オフのTBSグループによるベイスターズの買収だ。

「親会社マルハ(現・マルハニチロ)は当初、保有比率2位のニッポン放送を売却先に、と考えていましたが、グループ企業のフジテレビがヤクルト球団の大株主であることをナベツネ氏に指摘されて破談に。

 代わりの“身受け先”として、フジのライバル企業であるTBSにナベツネツネ氏が話をつけた」(前同)

 なお、ソフトバンクによるダイエー買収が表面化したのは、04年6月の、近鉄とオリックスの球団合併に端を発した球団再編騒動のまっただ中のことだった。

「西武・堤義明オーナーが提唱する“1リーグ10球団構想”は、いわばパ・リーグの悲願で、それをナベツネ氏も推進。この最中にもナベツネ氏は、ライブドアを率いる堀江貴文氏を“口撃”しつつ、財界への根回しに余念がなかった三木谷浩史氏の楽天参入を強力に後押ししました」(前同)

 なぜ渡邉氏は堀江氏をそこまで嫌っていたのか。

「彼がインサイダー取引に手を染めていたと考えていたんです。“犯罪者がプロ野球のオーナーになるべきじゃない!”と激昂してましたから。実際、堀江氏は06年に証券取引法違反で逮捕されています」(同)

 今では考えづらい“巨人中心主義”の球界において、その旗色が変わったのは、騒動から1か月後だった。

「7月8日、選手会会長の古田敦也がオーナー側との対話を求めたことに、ナベツネ氏が“たかが選手が”と発言。球団と選手の関係性を表しています」(同)

 これにより世間の風向きは一気に変わったのだった。

「もっとも、言い出しっぺだった堤オーナーも、翌05年の3月に証券取引法違反容疑で逮捕されて失脚。07年には、グループを新たに率いる、みずほ銀行出身の後藤高志社長にオーナー職も譲りました」(同)

 ちなみに、この西武の危機にもナベツネ氏は秘密裏に動いていた。

「家電大手のビックカメラに買収を打診。メインバンクのみずほ銀行が直接、西武グループの再建に乗り出さなければ“ビックカメラ・ライオンズ”が誕生していたともいわれます」(同)

 そんな“フィクサー”ナベツネ氏の最後の大仕事が、11年のDeNAによるベイスターズの買収だ。

「赤字運営に白旗を上げたTBSに代わり、かねて懇意だったDeNA・南場智子オーナーをマッチング。南場さんの条件は“野球の素人だから、球団内部で働く専門家を呼んでほしい”ということ」(地元紙記者)

 そこで渡邉氏“子飼い”の元巨人勢の出番となった。

「GMに高田繁氏、その補佐に吉田孝司氏が配されました。

 そして、10年にナベツネさんの強い意向を受けて、政党『立ちあがれ日本』から参議院選挙に立候補した中畑清氏を“あいつには借りがあるから”と監督に据えました」(前同)

 そんな“野球素人集団”だったDeNAだが、今や球団は黒字経営だ。

「球団経営の成功例として持てはやされていますが、度を超えた“観客ファースト”と、データ重視の方針に、現場は辟易しているそう。三浦大輔前監督の退任も、野球未経験で編成部門トップとなった人物と対立し、喧嘩両成敗の形。今後は、どうなるか……」(同)