■何もないを輝かせる高石あかり

 その姿勢がはっきり見えたのが第8週だった。トキがヘブンのためにビールを探し、教えてもらったスキップがうまくできずに苦戦する。ほぼこれだけの週だった。これについてふじき氏は、Xに《高石さんが「ばけばけは途中から何もなくなる」と以前言っていた、その何もなくなるの一端が見られる第8週だと思います。私としてはある意味、王道の回です》とポストしていた。

 しかし、この週の第40話で16.3%の高視聴率(25年12月21日現在の番組3位)を叩き出している。視聴者からもXに、《大きな事件も起きずにゆっくりゆっくり日常が進む中で2人の関係に信頼が生まれていくのいいね》など、多くの称賛の声が寄せられていた。

 何も起きない朝ドラが明らかに支持されている。それは演出、演者の力も大きいが、何より高石の力があってこそ。セリフがなくとも表情や所作で、トキの微妙な心の動きを伝えてしまう、圧倒的な情報量の演技があるからこそ。何も起きない物語がキラキラと輝き、人の心を吸い寄せてしまうのだ。

 9月29日から放送が始まった『ばけばけ』も物語の半ばを迎えるが、もちろん、トキは「夢は○○だけん!(島根言葉)」なんて、一度も発言していない。今後も、どんな“何も起きない物語”が展開されるのか楽しみだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。