■スターバックスも100円値下げ、苛烈極める飲食店事情
こうした例は、海外でも見受けられている。
「タイではトムヤムクン風スープのテイストの物や、シンガポールではココナッツミルクとエビの出汁を合わせた現地料理のラクサ風の麻辣湯が登場しています。ヴィーガン志向が広がる欧米では豆乳がスープに加えられたり、韓国ではチーズを入れるなど、本場の味とは違うスタイルの物が登場しているんです」(前出の中国の飲食店事業に詳しい関係者)
麻辣湯を提供するチェーン店が続々と中国国外へと進出するのには理由があるという。理由は国内市場での消費の底冷えだ。
「中国国内では節約志向の高まりから“消費降級”が話題です。これは高価な国外ブランドではなく、国内商品を大切にしようという思考のこと。飲食業界も例外ではなく、都内の日本橋にもある台湾系小籠包レストランのディンタイフォンは昨年11月までに北京市や天津市にある14店舗を閉めました」(前同)
現にコーヒーチェーン大手のスターバックスは25年6月、中国で茶系飲料などの価格を5元(約100円)前後値下げ。競合他社に比べて“スタバ”は高いという印象を消そうと躍起になっている。
「中国国内で飲食店を出して当たると、他社がすぐに真似をして価格競争が起き、最終的には資金力がある大手が勝つ流れになっています。その競争を回避するべく、海外に進出しようというのが今の大きな流れです」(同)
その流れに乗ったのが麻辣湯というわけだ。前出の阿生氏が話す。
「チャイナタウンは世界中にあるので、まずは中国系コミュニティで暮らす人を対象に出店しているのだと思います。日本も最初は池袋や上野など、中国人が多い場所から出店が始まりました。それが時間が経つにつれ、日本人にも受け入れられたということでしょう」
こうして中国の“国民食”は、世界各地を席巻していったわけだ。しかし、麻辣湯の本場である中国で暮らす人々も、本物の“麻辣湯”を知る人は少ないようだ。
「今、世界で主流になっている麻辣湯は牛骨ベースですが、本場四川の麻辣湯は火鍋みたいな真っ赤なスープです。それは、現地の人でも辛すぎて食べられないほどの辛さになっています」(前同)
「麻辣」(マーラー)とは、痺れる辛さを意味する四川料理の特徴だ。辛すぎて食べられなかった麻辣湯は、中国の東北部、ハルビンや大連でアレンジされた。
「世界に店舗数が多い楊国福麻辣湯は牛骨ベースで、四川に比べたら辛さがマイルドです。四川の辛さは中国人でも食べられない人がいますし、結局牛骨系が一番万人受けする味になっているのではないかと思います」(同)
販売される地域ごとに味や見た目を変えて、その地域の人に受け入れられてきた麻辣湯。中国4000年の歴史の教訓を生かした結果か。
大前プジョルジョ健太(おおまえぷじょるじょけんた)
1995年4月11日大阪府大阪市生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業後、TBSに入社。『あさチャン!』など朝の情報番組を1年間担当した後に報道局経済部へと異動、その後、『ラヴィット!』『サンデー・ジャポン』などの情報バラエティー番組を担当。入社5年目の22年春からは自身が立案した『不夜城はなぜ回る』を担当すると、翌23年1月には優れたテレビ番組を表彰する「ギャラクシー賞」を受賞し話題を呼んだ。
阿生 (あしょん)Asheng
東京で中華を食べ歩く会社員兼ライター。大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、ガチ中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内を中心に新しくオープンした中華を食べ歩いている。(X(旧Twitter)、uka.tokyo/" rel="noopener" target="_blank">公式サイト)