■ 『鬼女の棲む家』スタッフによる意図的な“ネタドラマ”的描き方 狙うはネットミーム化

 ドラマ『鬼女の棲む家』ではダイジェストのように紹介されていた鬼女だが、実際はかくも恐ろしい集団なのだ。作中で明香里(石田)は「既女板」ではなく、元鬼女として“SNSで活動をしている”が、それはなぜだろうか。

 前述の『毎日新聞』や『大津』のケースでもわかるとおり、「正義に参加できる」「匿名で安全に発言できる」「仲間との一体感がある」「(炎上させることに)成功すれば達成感がある」これらが合わさり、正義は“エンタメ化”した。

 ところが現在では、誹謗中傷の厳罰化、プラットフォーム規制、開示請求が一般化されている。インターネット掲示板が隆盛を極めた時代とは、状況は大きく変わってしまったのだ。当時、2ちゃんねるを活発に利用していたのはアラサー世代。そして時間が経って、当時の鬼女たちも今、40~50代に。

 それでも明香里は、あの時代の……鬼女の快楽を忘れられなかったのだろう。いわゆるドーパミン中毒だ。今も細々と活動しながら、そのドーパミン放出がストレス発散になり、家庭もうまく回っている。明香里の背景もおそらく、このようなところであろう。

 このように、本作はその背景がかなりリアルに描かれている。あまり適当なリサーチだと、元鬼女に制作スタッフが炎上させられかねない(笑)。

 そして、さらにはこれをコミカルに、デフォルメしているのも本作の特徴だ。スタッフが本作を“ネタドラマ”的に作ろうとする思惑が、映像から透けて見える。

 たとえば、カレーの中に煮込まれていく“炎上する人々”の画──。これだけでも面白すぎる。切り取って画像にすれば、SNSで煽りに使えるネットミームになるのではないだろうか。その時の、ウキウキでカレーをかき混ぜる明香里を演じる石田ひかりの笑顔もまた、常軌を逸した雰囲気に満ちていた。この表情もミームになりそうだ。

 口コミやバズ、またミーム化されることは、今や、コンテンツがヒットする必須条件になっている。

 最近では『子宮恋愛』(読売テレビ、25年4月期)で主人公の女性が恋に落ちたときに子宮に響く「ぴちょん」の音がバズりした。この音が『機動戦士ガンダム』のニュータイプの音に似ているというところと、ドラマのタイトルの強烈さもあり、SNSでは「子宮恋愛はニュータイプだった」「子宮恋愛の反対は睾丸恋愛」などと、SNSは一躍、大喜利状態になった。

 本作もそれを狙っているかもしれない。ちょっと常軌を逸したユーモラスな映像、やりすぎな展開、ネタになり得るギリギリのものを見せていき、口コミやバズで知名度向上を狙っている節もある(鬼女を今頃取り上げている時点ですでにネタ感満載だが)。

 これはあくまでもドラマの主題ではなく、裏テーマ的なものである。だが、このドラマから新たなミームが生まれ、SNSがお祭り騒ぎになれば……本作は大ヒットするかもしれない。

衣輪晋一(きぬわ・しんいち)
メディア研究家。雑誌『TVガイド』を経て制作現場を直接、長年見た経験とインタビュー経験から、多くのエンタメコンテンツを執筆。現在『マイナビニュース』『オリコンニュース』をはじめ、昨今では『東洋経済オンライン』でビジネス系のメディア研究も。写真集『堂本剛の正直I LOVE YOU』企画発案。元『メンズナックル』コピーライターなどサブカルにも通じる。