美大卒のデザイナーの父と女子大卒の母との間に生まれた竹内里奈さん(28・仮名)。幼い頃から父の職業が不安定だったゆえか、母は里奈さんとその兄には“手堅い人生”を望んだという。その結果、小学校4年生の頃から2人とも中学受験向けの塾へと入塾。

 努力の甲斐もあり兄は偏差値68の名門私立中高へと入学し東大へと進学。その後、大手広告代理店に入社し、30歳にして優に1000万円を超える年収を稼ぎ出しているという。里奈さん自身も偏差値63の私立の女子校から慶応大学に進学。就職活動を経て、総合職として大手銀行へと入行した。

 現在、54歳となる里奈さんの母も2人の子供を無事、社会に送り出し、ひと安心。そんな折、一人暮らしをしていた里奈さんから母の元へと届いたのは「会社を辞めた」という一通のLINEだった。今回は里奈さんのケースをもとにキャリア設計の難しさとお金の関係を検証する。

 ※     ※

「ママ、会社辞めたから、荷物実家に送っていい?」

 母が娘から連絡を受け取ったのは昨年10月のことだという。聞いてみると、年内で新卒から6年ほど勤務した会社を辞めるのだという。

 実の娘にダメと言えるはずもなく――その後、「出戻りしてきちゃった~」と笑いながら、かつての自室へと向かう娘の背中を呆然と見つめる母。大手の金融機関に勤め、800万円超の年収を受け取っていた娘に「あんな良い会社、なんで辞めたの?」と尋ねる。

 その問いに里奈さんが「うーん……。飽きたからかな」とポツリ。

 すると、がっくりと肩を落とす母。

「あなたを育てるのにいくらかかったと思っているの。中学受験の塾代だけで400万、中高の学費だって6年で600万よ。大学だって4年間で学費が500万。2000万円近くかけて育てたのに、次の目途もないまま大手企業を辞めるなんて……」

 30歳を前に、「このままでいいのか」とキャリアを考えたとき、「謎の焦燥感があって、気がついたら退職を決意していた」というのが里奈さんの本音だが、肩を震わせうつむく母を前に当然、そんなことは言えるはずもない。