■娘が転職を意識した本当の理由
里奈さんが自身の本音を話す。
「普通なら、そのまま勤めてキャリアアップを狙うんでしょうね。特に今は女がやたら持ち上げられるので、私もそのまま会社にいたらトントン拍子で出世して、管理職っぽくなれていた未来も見える。でも、逆に、人生それでいいのかなと思ってしまって……。
だって、何かをあらためて始めるなら30歳はまだ“間に合うな“と思ったんですよね。30歳なら未経験でも別業界に飛び込めそうじゃないですか。何かするなら今。しないなら一生このまま。そう考えたとき、私には会社員人生で笑っている自分が見えなくて……」
そう語る里奈さんの脳裏には、あるYoutuberの姿が焼き付いているのだという。2年ほど前から毎晩会社から帰っては、里奈さんが自室でぼんやり見ていたYouTube。そこではいろんな人がさまざまな切り口で、自身の経験やキャリアといった“武器”を再生数に替えていた。
事実、里奈さんが頻繁に視聴していたという学歴社会を皮肉った内容の動画を毎日アップしている2人組Youtuberのチャンネル登録者数は70万人超で動画再生回数は平均して30万回ほど。今までの自身の受験歴とわずかばかりの社会での経歴を語るだけでお金になるなんて驚きだ。そんな動画を日々見ていた、里奈さんが『学歴』と『ハイキャリア』をうたい、尖ったトークを繰り広げる人たちの輪に飛び込もうと考えるようになったのは自然な流れだったのかもしれない。
生来が真面目な性分の里奈さん。数多のYouTuberを観察し、自分もその世界に飛び込むことを決意したというのだ。テーマは『就職』『学歴』『キャリア』『女性の生き方』だ。
しかし、もはやYouTube業界はレッドオーシャン。『学歴』や『ハイキャリア』を武器に活躍するYoutuberは星の数ほどいる。里奈さんも張り切ってチャンネル開設をしてみたものの、登録者数は半年経っても4ケタには遠く及ばず、動画1本あたりの再生回数も数十回程度。最初は週に2回動画配信をしていたが、今や企画もネタ切れ。週に1回配信すればいいほうになってしまったという。
実家の自室を配信部屋に改造し、閉じこもる里奈さんの様子に、母は心配が止まらない。
「せっかく独り立ちできるように教育にお金をかけたのに、今は収入もなく、退職時にもらった100万円ほどの退職金を食いつぶしている感じなんですよね……。そのまま会社にいたら30歳のときには1000万円は確実にもらえていたはずなのに。どうしてこうなってしまったのか」
働き方が多様化した令和の時代。娘に堅実な人生を歩むことを望んだ母の願いは届いていないようだ。
転職とお金の現実を税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)を持つ宮岡秀峰氏が解説する。