■個人事業主が“成功”するために稼ぐべき金額とは

――Youtuberのような個人事業主として働く場合、当然、会社員と違って退職金などがありません。大手金融機関の社員のような手厚い福利厚生もありません。個人事業主として働く場合、俗に「会社員の3倍稼いで1人前」とも言いますが、年間でいくらくらい稼げれば個人事業主として金銭的には会社員時代と比べてもそん色ないと言えるのでしょうか。

 YouTuberのような個人事業主として働く場合、会社員と異なり、退職金制度や厚生年金といった将来に向けた保障を自動的に得ることはできません。また、大手金融機関の社員のような手厚い福利厚生や雇用の安定もなく、収入の変動や病気・不調時に収入が途絶えるリスクなどを含め、すべてを自ら管理していく必要があります。

 そのため、会社員時代と単純に同じ年収を得ていたとしても、生活の安定性や将来への備えという点で、必ずしも金銭的に「同等」とはいえないのが実情です。特に年金や老後資金については、会社員時代には制度や企業が担っていた部分を、個人事業主では自力で補う必要があります。

 28歳で年収800万円という大手金融機関社員の水準は、一般的に見てもかなり高いレベルです。社会保険の会社負担分や将来の退職金などを含めて評価すると、実質的には年収1000万円前後に相当するとみる考え方もあります。その意味では、個人事業主が会社員時代と「そん色ない」状態を実現するには、単に生活費をまかなえるだけでなく、将来への備えや収入変動への耐性まで含めて考える視点が必要になります。

 こうした点を踏まえると、竹内さんのように28歳で年収800万円の会社員が個人事業主へ転身した場合、金銭的に同等の成功といえる一つの目安は、事業所得でおおむね1300万~1500万円程度と考えるのが現実的でしょう。YouTuberにどの程度経費が生じるかはケースによって異なり一概には言えませんが、売上ベースでは年間1700万~2000万円前後が一つの水準ではないでしょうか。

 この程度の規模に達していれば、会社員時代と同程度の生活水準を維持しつつ、将来への備えや収入変動への対応も行いやすくなります。個人事業主としての魅力は金銭面だけではありませんが、会社員時代と比較して「金銭的に成功しているか」を判断する際には、こうした数字感を一つの目安として捉えるのが妥当だといえるでしょう。

――転職が珍しい時代ではなくなりました。特に30歳前後で転職をする人が多いように感じます。転職活動をする際に注意すべき点をキャリアと金銭的な観点から教えてください。

 転職が珍しくない時代となり、30歳前後で働き方を見直す方も増えています。転職活動を行う際には、仕事内容や将来像だけでなく、金銭面での条件を冷静に確認することが非常に重要です。

 まず注意したいのは、提示されている年収の「額面」だけで判断しないことです。同じ年収表示であっても、基本給と賞与の割合、残業代の扱い、インセンティブの支給条件などによって、実際の手取りや収入の安定性は大きく異なります。特に成果連動型の報酬が多い場合、想定どおりの収入が得られるかは慎重に見ておく必要があります。

 また、福利厚生や将来給付の違いも見落とせません。住宅手当や企業年金、退職金制度の有無は、短期的には実感しにくいものの、長期的には生涯収入に差を生じさせます。年収が多少上がっても、これらがなくなることで、実質的には条件が悪化するケースもあります。

 さらに、転職直後は収入が不安定になりやすい点にも注意が必要です。賞与の支給時期によっては初年度の年収が下がることもありますし、評価制度の影響で想定より報酬が伸びない場合もあります。そのため、少なくとも半年から1年程度の生活費をまかなえる資金余力があるかを確認したうえで転職に踏み切ることが、金銭的なリスク管理として重要です。

 30歳前後の転職は人生設計に影響を与える選択です。短期的な年収の増減だけで判断するのではなく、手取り、制度面、将来への備えを含めた「実質的な条件」がどう変わるかを総合的に確認することが、金銭面で後悔しない転職につながるといえるでしょう。

 

税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格を持つ宮岡秀峰氏 ※提供画像

宮岡秀峰(みやおか・しゅうほう)
公認会計士、税理士、行政書士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)。税理士法人アクシア代表社員、アクシア公認会計士事務所代表。公認会計士として会計・財務の視点から中小企業支援に取り組むほか、相続・事業承継分野にも幅広く携わる。講演や税務相談の実績も豊富で、会計・税務分野の書籍共著、雑誌寄稿も行なっている。

税理士法人アクシア 公式HP:https://axia.or.jp/