■5年間受給を繰り下げ支給額は42%増

 それから2年。5年間年金の受給を繰下げたことで上杉さんが受け取れる年金は65歳時点と比較すると42%増額。65歳当初は月に16万円ほどの年金が支給される予定だったのが70歳になった今、月に受け取れる年金は23万円にまで増えたというのだ。退職金もあったためこの5年間、生活資金に困ることはなかったという。

 ここで年金の受給を始めた上杉さん。しかし、この時点で加齢による衰えは上杉さんに忍び寄っていた。上杉さんが年金受給を始めてから2年。悲劇が起きる。

「自宅の前で転んでしまい足を骨折。外出もできなくなり、寝て過ごすことが増えました。年金も受け取り始めましたし、現役時代の趣味だったゴルフをやろうと思ったのですが……」

 厚生労働省が発表したデータによれば、2022年時点で日本人男性が心身ともに自立し、健康的に生活できる期間は72.45歳まで。退職後、健康に過ごすことができる期間は想像よりも短いのだ。

 また、上杉さんは5年間年金の受給年齢を繰下げ、70歳から年金を受け取り始めたため、81歳11か月より長生きをしないことには、年金の総支給額が65歳時点で受給を始めた人を上回らない。

 厚生労働省によれば日本人男性の平均寿命は24年時点で81.09歳。65歳時点から年金の受け取りを始めた人の方が、70歳から年金の受給を始めた人よりも総支給額では上回る可能性が高いのだ。上杉さんは布団の上でこう呟く。

「得だと思ったのに……。繰下げ受給は損だったんですね」

 年金と老後生活の実態を税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)を持つ宮岡秀峰氏が解説する。