■その日にしか食べられない一杯も存在し…
そんな中で、全国で唯一無二の“体験”を来店客に提供するとして注目を集めているのは群馬県安中市の『improv. (インプロヴ)』だ。なんとこの店、即興のメニューしかない。まさに“その日”にしか食べられないラーメンを作り上げるのだ。
藤野氏が観測したある日のメニューは牛のフレーバーに濃厚豚骨平太麺という『上州牛サーロイン熟成特濃豚骨百会』。また別の日は家系ラーメンが洗練された濃厚の極み『家系系の再構築[濃厚Renovation豚骨醤油]』だったという──。本当にその日だけしか体験できない味わいに食べる前はワクワクが止まらず、食べ終えた後には満腹感と共に少しの名残惜しさを覚えたそうだ。
また先日、『improv.』の小路百太シェフが都内で行ったイベントではなんと「即興の味わい」と「シェフとお客さんをつなぐ」という“体験設計”を試みていたという。
「『improv.』百太シェフの真骨頂は、複数の香味油を用いた変化するスープ作り。レンゲですくう場所を変えると一杯の中でも味わいが劇的に変わる。また時間の経過で味のグラデーションが進むという新体験スープに、様々な肉料理とソースを別皿で用意し、それをお客様の好みで自由に組み合わせ、ラーメンと合わせて味わってもらったのです」
さらにイベントでは来店者に厨房へ入ってもらい、作る工程と素材についてシェフと話す時間も設けた。最後には、ラーメンに使用された素材を当てるカードを渡し、フリークの心をくすぐる、味覚を試す体験も用意されていたという。
もちろんこれはイベントならではの仕掛けだが、味の変化を楽しむスープ、自由な組み合わせ、シェフとの対話、そして味覚を試すゲーム。一杯のラーメンを軸に、五感と知的好奇心を刺激するイマーシブな体験がデザインされていた。
「近年、ラーメン業界では高品質化が進み、差別化が難しい、さらに1杯1000円超もざら。この価格帯になってくると、消費者にとっても美味しいのは当たり前なんです。そうなるとプラスアルファが求められる。お客さんが店舗に来店するだけで、他のお店ではできない体験を経験できることには価値がある」
また、来店者の店舗での体験を重視した店作りはインバウンド需要の強化にもつながるという。
「いまやラーメンは、日本国内だけでなく世界中で親しまれる“RAMEN”として確固たる地位を築いている。訪日外国人旅行者の増加を背景に、味だけでなく、オープンキッチンでの調理風景や店主との会話、器や空間を含めた“体験”を求めて来店する人も少なくない。今後は、一杯のラーメンに込められた素材や技術、生産者の想いなど、その店ならではのストーリーを感じられる店舗が、さらに存在感を高めていくのではないだろうか」
群雄割拠のラーメン業界。次なる潮流は、すでに動き始めている。
藤野弘行(ふじの・ひろゆき)
1978年生まれ。日本のラーメン文化を世界へ発信し、訪日外国人向けに特化したラーメンの講座作り、コンシェルジュ、店舗アテンドまでを手がける、日本唯一のインバウンドラーメンコンサルタント。麺文化の深化と発展を担う全国コミュニティ【「東京/大阪/東北】麺会プロジェクト代表。マツコの知らない世界(TBS系)にラーメン専門家として二度出演のほか、テレビ番組の監修・出演、執筆活動など、多方面で活動。