■天皇を理解するために空手をはじめた内田樹
三島のこの呼びかけに対して、東大全共闘からすごいヤジが飛んだ。
「私は諸君の熱情は信じます。これだけは信じます。ほかのものは一切信じないとしても、これだけは信じるということは分かっていただきたい」
そう告げて三島は壇を後にした。それから1年半後に、三島は陸上自衛隊市谷駐屯地で割腹自殺をする。
この三島由紀夫という水晶の塊のような多面体の作家を見て、内田青年は、その一断面に秘められた“天皇制にこだわる三島由紀夫”が理解できなかった。
そこで若き日の内田樹は何を思ったかというと、「俺も天皇を学ぼう。三島と同じように天皇を学ばないと日本は理解できない」と思った。それでどうしたかというと、「よし、天皇を理解するために空手をやろう」と、東大に合格した後に空手部に入った。
何で天皇を学ぶために空手なのか?
内田樹先生は著書の中でこう述べておられます。
「なぜ空手部なのか、今考えたらわからない」
自分でも“どうして空手なのか”分かってなかったんですね。
切断されし水晶の切口が
或角度にて暗黒に見ゆ
この短歌を見たとき、なぜか私は内田樹先生のこのエピソードが頭に浮かびました。この短歌にある“水晶という多面体の一面にある暗黒面”とは、このことじゃなかろうかと。
人はあるとき、とんでもないものにつながってしまうことがある。因果ではなくて非因果。自分でもよく分からないけど、なぜかそこにつながってしまった自分がいる。
皆さんもそんな経験がありませんか? 何でそんなことを思ったのか、何でそんなことをやったのか、自分でもよく分からないことが。
私、思うんですよ。それが水晶の一断面の暗黒面に潜んでいるんじゃないだろうかと。
内田青年はその後、空手部を辞めて合気道を学びます。内田先生は最近の著書で「空手と三島の関係がやっとわかってきた」とお書きになっている。合気道の中から天皇制とは何かが見えてきたというんですね。
残念ながら私には、内田先生に何が見えてきたのかは分かりませんが、このエピソードから思うのは「自分と異世界をつなぐ入口が、心の中の断面のどこかにあるのではないだろうか」ということ。
ひどく抽象的な言い回しではありますが、だから私たちはときとして、自分でもよく分からないような行為や言動をしてしまうことがあるんじゃないだろうか。人間の心はそういう多面体でできているのではないだろうか。
これは私独自の解釈ではありますが、今回の短歌は水晶の断面にある暗黒面から、そんな人間の心の不思議な一面を教えてくれたような気がしてなりません。
短歌の読み方は自由。私はこのように解釈しました。
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武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。