■在来種を淘汰しかねない
子どもの頃は可愛かったアライグマが、成獣になる頃には気性の荒い本性を出てきた。その末に、面倒が見切れずに山や公園に放ってしまうという事例が発生したのだという。
「特に、当時はペットを“棄てる”ことへの取り締まりが厳しくない時代でした。飼いきれなくなったから逃がした、という行為は珍しいことではありませんでした」(以下、カギカッコのコメントはすべてパンク氏)
実際に、動物愛護管理法でペットの“遺棄罪”の罰則強化が施行されたのが2000年、“終生飼養”を飼い主の努力義務として明文化したのが2013年と極々最近のこと。その間にアライグマをはじめ、多くの外来種が国内で繁殖してしまった。
「ちなみに、アライグマが日本でここまで繁殖できた理由は、その適応能力の高さでしょう。暑さにも寒さにも耐性があるので日本の環境は苦ではないはずですし、都市部を中心にエサになる生ゴミも豊富なので、数も増えてしまったのではと思われます」
アライグマがもたらす害としては、農作物やニワトリなどを食べてしまう「食害」、家などを糞で汚す「糞害」などがあるが、さらに深刻なのは“在来種を淘汰しかねない”という問題だ。
「在来種の爬虫類や両生類を食べ尽くしてしまう懸念や、生活圏が重なるキツネやタヌキなどの哺乳類を追いやってしまう可能性があります」
タヌキやキツネを脅かしてしまう理由としては、その生活形態と性格が考えられるという。
「アライグマは家の屋根裏に忍び込んだり、パイプを駆け上がったりできるなど、立体的な動きに優れていてキツネやタヌキより活動範囲が広いんです。またエサの取り合いの際には、アライグマの方が我が強く、周りを追い払ったり独占しようとしたりする傾向が強い。こうした行動特性の違いは、在来種との競争では無視できません」
かつて“ペット”として愛されるため日本にやって来たものの、いまや“害獣”と忌避される存在となってしまったアライグマ。その可愛らしさと持ち込まれた背景に、思わず手を差し伸べたくもなるが……。
「とにかく触らない、近寄らない。アライグマ回虫などの危険な感染症のリスクもあるので、接触してはいけません。また、危険を感じると立ち向かってくることもありますから、極力近づくのもやめましょう」
どんなに愛くるしい“ラスカル”に見えても、あくまでも野生動物。触ったり自分で捕まえることはせず、まずは自治体に相談することが大切だ。
パンク町田(ぱんく・まちだ)
1968年8月10日生まれ。東京都出身。動物研究家。NPO法人生物行動進化研究センター理事長。最も好きな動物は犬。ムツゴロウさんこと畑正憲(はたまさのり)から「犬のことをもっと勉強しなさい」という言葉を励みにしている。犬の訓練士でもあり、愛玩犬のしつけ、猟犬、バンドッグ(護衛犬)、闘犬の訓練も行う。父が中華料理店を経営していた影響で当初は料理人を目指していたが、動物に関わる仕事を諦めきれずトリマーの専門学校に進学した。ペットショップ勤務ののち21歳で独立、爬虫類のバイヤーなどを務めた。1992年から動物の専門誌などで執筆活動を始めた。人気著書多数。