■「ソバーキュリアス」とは

 日本経済が右肩下がりになるにつれ起きた、若者が酒席に触れる機会の減少。そんな中、近年若者の間では、“酒を積極的に飲まない”ライフスタイルが注目を集めているという。

「飲めるけどあえてお酒を積極的には飲まないことを選択する生活様式は”ソバーキュリアス”と呼ばれています。”ソバ―キュリアス”とは、“しらふ”を指す”sober”と、好奇心が強いという意味を持つ”curious”という単語をかけ合わせたできた造語。

 酒類メーカーが若者にお酒への興味を少しでも持ってもらうために打ち出しているワードで、まだまだ根付いているとは言えません。しかし、そういった志向を持つ人がいるのは事実だと思います」(前出の原田氏)

 この”飲めるけどあえて積極的には飲まない”という選択肢を取る若年消費者の深層には、個々の嗜好性を尊重しつつも、適度にお酒の場には馴染みたいという心理があるようだ。

「若者の酒離れと言われて久しいとはいえ、お酒の席はなくなりません。そういった場で自分だけ全く飲まないのも場を盛り下げるかなという心理を抱くもの。そうした時に、お酒そのものは得意じゃないけど、酒席で一体感を味わいたいという人のためにノンアルや低アル、微アル飲料は一役買うのです」(前同)

 一方で、リーズナブルな価格の酒、料理でワイワイ楽しめる格安居酒屋を好む若者がいるのもまた事実だ。こういった現象を原田氏はどの様に捉えているのか。

「お店がお酒を飲ませることで、今の若者にはやっと飲酒体験がつくんです。酒席に触れる機会が少ない若者の間では個人の体験差が大きくなり、飲むか飲まないか、2極化しつつある印象です」(同)

 同時に原田氏は、「メーカー側も若者がお酒に触れる機会を作ることの大切さ」を挙げる。

「20歳や社会人になって早い段階でお酒を飲む経験がなかった人が、30歳になっていきなりお酒を飲むようにはなりにくい。一方でファッションや音楽、メイクなど、韓国文化が日本の市場を席巻していますが、お酒でも韓国系が上手なマーケティングをしています。

 今、韓国焼酎ブランド『チャミスル』から22年に誕生した、度数5%と低アルコールで炭酸が入った『チャミスルトクトク』シリーズが若者の間で大人気。これは日本人がソーダ割りを好むことから着想を得た商品です。すももやマスカット、ざくろなどのフレーバーはどれもフルーティーで飲みやすく、コンビニでも売れているんですよね。着眼点と売り方に長けているなと思います」(同)

”あえて飲まない”という選択肢も取り始めた若者たち。酒のエントリー層である若年層を取り込まないと、この先、消費者層は細る一方。日本の酒類メーカーには、韓国企業の後塵を拝して欲しくないところだ。

原田曜平
慶應義塾大学商学部卒業後、広告業界で各種マーケティング業務を経験し、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。
2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に「寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生(角川新書)」「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?(光文社新書)」など。