■若い世代の合理的な価値観 「所有」から「利用」へ

 ワークマンやニトリ、イトーヨーカドーが発売するのは、「軽量」及び「手頃な価格」の消費者ニーズが満たされたランドセル。徐々に市場のあり方が見直されてきたということだ。そんなランドセルに対する価値観については、重さや価格以外にも親世代(購入者側)と子世代(使用側)で大きな違いがある。

 筆頭に挙げられるのは「色」だろう。

 昔は圧倒的に男児は黒、女児は赤だったが、前出・ランドセル工業会によれば21年、女児向けに購入された人気カラーは紫/薄紫が21.5%と赤(21.1%)を上回り、僅差で1位を初獲得。その後、紫系が人気を伸ばすと、赤はどんどんシェアを下げ、23年には紫系が29.6%とダントツの1位、定番カラーだったはずの赤は4位(12.4%)にまで沈んだ。

 男児のランドセルは黒が根強い人気を誇るが、その割合は下がっており、20年に70%だった割合は22年に58.4%と6割を下回る。ランドセルカラーに対する既存概念の変化について、前出の久我さんは「今はジェンダーレスの流れによって多様化しています」と、時代による移り変わりを指摘する。

 それ以外にも、消費者行動は「何年も長持ちする立派なものを買う」一択ではなく、「そのとき使いやすいものを、その時々で買う」スタイルに移りつつある。

「若い世代を中心に、モノを買って所有するよりも、必要なときに必要な量だけ利用する、“所有から利用へ”という価値観のシフトが生じており、今、さまざまな商品領域でサブスクサービスの提供が広がっています。

 ランドセルについても、定額を支払うと色や形を変えられるようなサブスクサービスが登場しています。小学校の6年間は体が大きく成長する時期ですので、成長にあったものを適宜選べるような合理的なサービスとも言えます」(前同)

 多種多様化するランドセル。「ランドセルといえば本革が高級で、6年間使うもの」という概念もそろそろほころび始めている。

久我尚子
消費者行動、心理統計、マーケティングを専門に2010年よりニッセイ基礎研究所生活研究部門で活躍。人々の暮らしをデータから読み解きそれぞれの消費行動の特徴を分析する。21年7月より生活研究部上席研究員