■“大衆食”イメージ一色からの脱却を迫られるラーメン界

『牛門ハラルラーメン』では、数あるメニューのなかにベジタリアン・ヴィーガンメニューを用意するのではなく、そもそも“ハラル”用に処理された特別な肉を使う。ターゲットは相当しぼられるが、そんなハラルラーメンの台頭に、井手隊長は「日本のラーメン界が進化の時」だと指摘する。

「東京商工リサーチの調べによれば、23年度のラーメン店の倒産数は63件と過去最多を更新するなど、立ち行かなくなっているラーメン店も相次いでいます。そんな中で、今までと同じことをやっていたら生き残れない、という危機感はどの店にもあると思います。

 どこをターゲットにしていくかは大事な戦略で、外国人、さらにはムスリム向けにの様に対象を一つに絞るのも考え方ですよね。行列に関しては、2000円以上するようなラーメンでもそこにしかないとなれば、お客さんは来てくれるということ。一方で、手軽な価格帯を死守するという考え方ももちろんあります」(前出の井手隊長)

 ラーメンには800円の壁、1000円の壁があるなどと言われるが、価格帯に縛られる時代は終焉を迎えているともいえそうだ。

「これまで800円台ぐらいだったラーメン屋さんが、原材料や光熱費の高騰などで値上げして1000円を超えないとやっていけないとなったときに、常連客が離れてしまう可能性もあります。

 でも本来、飲食店にはそれぞれの戦い方があっていいはずです。たとえば寿司では、回転寿司からカジュアルな寿司店、さらには超高級店もある。それなのに、ラーメンは“手頃な価格じゃないとダメ”という認識が根強すぎました。コンセプトとターゲットを考えて、既存の常識に縛られない需要があると証明できれば、ラーメンに対するイメージも変わっていくのではと。今は作り手も食べる側も、少し考え方を変えないといけない段階にきているように思います」(前同)

 日本人にとって、ラーメンは“大衆食”“B級グルメ”といったイメージがまだまだ強いが、その壁を壊すインバウンド需要。ラーメン界は転機に直面しているようだ。

井手隊長
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。著書に『できる人だけが知っている 「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム)。
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