■クマが人間の居住区域に現れるようになった理由

 なぜ、クマは人間の居住区域に現れるようになったのか。一つの理由は温暖化などの異常気象に伴う、木の実などの食料の不作だ。

「今年は、この地域は周期的にブナやドングリが不作のため、人里に出てくる個体が増えています。気象の異常で実りの周期が狂い、クマの食料が減ったことも原因の一つでしょう。

 これまで口にしなかったソバの実や豆類まで食べるようになっている。東北は、どこでも似たような状況でしょう。農作物を踏み荒らす被害も増えていますね」

 もう一つは、少子高齢化とともに進む、地方の急速な過疎化だ。

「若い人は都会に出て戻ってきません。残った高齢者だけでは手が回らなくなり、放棄されて荒れていく田んぼや畑が増えています。

 昔は農耕用に飼った馬や牛のエサを確保するため、草を刈っていました。今はそれもなくなり、草がどんどん生えてしまう。こうして山から森が“落ちて(広がって)”きている。人の手が入らない場所が増えたことで、クマにとっては行動しやすくなっています」

 もちろん、鈴木氏を含め、この地の住人はクマを遠ざけるため、さまざまな手を打っている。

「今朝も、仲間5人とクリ林の下草を払ってきました。クマは草むらの陰に隠れることが多い。本来、見通しのいい場所には寄りつきません。朝に3頭の成獣が目撃されたので、ひとまず、檻を設置しました。中にエサを仕掛けるには自治体への申請・許可が必要なので、順番待ちの状態です」

 また、この地域に生息するクマの生態を調査するため、一部の個体にGPSを装着し、山の中での動きを細かく記録しているという。

「最近は東京農大の先生と協力して、捕獲した4頭にGPSを装着し、生態を調査しています。今日、3頭と合わせて、この周辺には、7頭ものクマが出ていることになります」

 近年、人里に現れるクマには“人馴れ”が感じられるという。

「普通、クマは物音がすれば逃げます。しかし最近は人家のそばに2、3日潜んで、人けがなくなると出てきてエサを食べ、満足するまでそこに留まるケースが起きている。GPSを付けたクマも同じ場所を何度も回っていました。昔のクマとは、まるで行動が変わってしまったかのようです」