■おにぎりに血を染み込ませた

 授かった獲物の分配方法も、また独特だ。

「『マタギ勘定』といって、仕留めた人も、そうでない人も平等に分けます。肉も部位が偏らないよう、切って混ぜてから分ける。ちなみに一番おいしいのは骨に付いた肉、スペアリブです。

 誰か一人の力じゃ、クマは獲れません。みんなで山に入って、みんなでいただく。そうやって、仲間の絆が強まるんです」

 クマは全身余すところなく利用される。肉や内臓だけでなく、血、骨に至るまで、薬や強壮剤として活用され、それはマタギの貴重な収入源にもなっていた。

「昔のマタギは、解体中のクマの血をおにぎりに染み込ませて食べたりしていました。血を乾燥させて粉末にしたものは、薬として重宝されます。また、骨を黒焼きにし、その粉を使って湿布をすれば、捻挫や打ち身に効くといわれています。

 あと、『熊の胆』として知られる胆のうは、万病に効く薬。かつて、ここは“日本のチベット”といわれるほど交通が不便でした。病院が遠いこの地域では、クマこそが薬だったんです」

 長きにわたり、マタギの生活を支える“授かりもの”だったクマ。今後、どう付き合えばいいのだろうか。

「ここは限界集落なので、これ以上の山の手入れは難しい。人が住んでいない地域の畑や果樹園は、クマに渡してしまうのも一つの方法です。クマに住む場所を提供し、人間の住む場所と分ける。そうすることで、クマと人の緩衝地帯を作る。それが、これからの共存の形なのかもしれません」

 時代に合わせた、新たな模索が始まっている。

鈴木英雄(すずき・ひでお)
秋田県北秋田市にある阿仁打当集落で9代続くマタギの家系に生まれ、現在、打当マタギのシカリ(頭領)を務めている。