■檻に入ったクマは正直かわいそう
被害の急増を受け、昨年、クマ類は鳥獣保護管理法の「指定管理鳥獣」に指定され、駆除対策が強化された(四国を除く)。
現在、クマの出没時には【1】追い払い、【2】檻による捕獲、【3】猟銃による捕獲、【4】麻酔銃による捕獲といった手段が取られている。今年9月には鳥獣保護管理法が改正され、これまで警察官職務執行法に基づく警察官の命令が必要だった市街地での猟銃の使用が、一定の条件を満たせば、特例的に自治体の判断で可能になった。実際、9月20日には山形県鶴岡市内で住宅の敷地内に入ったクマを駆除するため、全国で初めて市長により「緊急銃猟」が許可される状況が生まれている。
クマが地域に現れ、対策が必要になると、自治体から地元の猟友会に出動要請などが届く。鈴木氏のもとにも、日常的にクマの出没情報や、さまざまな依頼が寄せられるという。
「集落にクマが出ても、ずっと居座るわけではありません。だから、銃を使わず、できる限り山に追い返すようにしています。駆除の依頼は、地域にケガ人を出さないためと割り切って行っています。春の猟を除けば、ほとんどは指定された設置場所に罠(檻)を仕掛けます。
罠にかかったクマは当然、暴れる。檻に入ったクマを見ると正直、かわいそうですが、人に危害が及ばないよう、仕留めなければならないこともあります」
マタギにとって、罠にかかったクマを銃で撃つことは、生業としての狩りとはまったくの別のものだ。
「私たちが昔からやってきたのは“狩猟”です。クマと対等に向き合って仕留めるのが、マタギの猟。だから、私たちはクマと“勝負する”と言います。そして、クマを得たとき、それを“授かった”と言います。
私たちにとってクマは山の神からの授かりもの。だから、昨今、クマが悪者のように扱われることには、違和感があります」
阿仁のマタギが信仰する山の神は“醜く嫉妬深い女性”と言い伝えられ、その怒りを買わぬよう、マタギは注意と敬意を払う。クマなどの動物だけでなく、山菜やキノコなど山の恵みによって成立するマタギ文化の根底には、自然を崇拝する山岳信仰が見て取れる。
「クマを授かった後には、必ず『ケボカイ』というクマの供養と、山の神への感謝の儀式を行います。
まずクマを北に向けて寝かせ、呪文を唱えて祈りを捧げるなど、決まったやり方があります。授かったクマの魂を山の神に返すことで、次の狩りも無事にできると信じてきました」
阿仁におけるマタギの歴史は平安期まで遡るといわれる。彼らの代表的なクマ猟の一つが『巻き狩り』だ。
「基本的には、斜面の下から上に追うことが多いです。シカリの指示のもと、大声を出しながらクマを追い立てる役目の『勢子』、それを待ち受けて鉄砲を撃つ『マチパ』がいます」
狩りはクマとの頭脳戦だ。
「クマは人間の気配を感じたら、すぐに去ってしまいます。だから『マチパ』なら、クマに気づかれないよう、遠回りして自分の持ち場に行かないといけません。
クマは賢いので銃で撃たれた際、死んだふりをすることがある。だから仕留めたと思っても油断せず、石や枝を投げて息があるのか、確認します。
ぐったりと手足を広げて舌が出ていればいいんですが、丸まっていると危ない。用心が必要です」