■「にかけうどん」には三河地方の義理堅い人柄が表れている
聞き慣れない“にかけ”の文字。どうやら、「かけうどん」のような、いわゆる素うどんではないようだ。店で一番安価なうどんながら、具材に青菜、鰹節、かまぼこ、きざみあげが乗っている。
愛知のうどん文化は、それぞれの成り立ちがかなり異なるようだ。
「きしめんは、名古屋で広く親しまれてきた外食・名物文化としての性格が強いもの。味噌煮込みうどんは、愛知に根づく豆味噌・赤味噌文化がうどんに反映された郷土料理と見ることができます。一方、豊橋のにかけうどんは、三河地域の小麦文化や、地元で日常的に食べられてきた“基本のうどん”としての性格が強いのではないかと思います」
こう語ってくれたのは、登録者8万人超えのYouTubeチャンネル『埼玉うどん子TV』を運営し、『誇るべき埼玉うどん26の物語』(双葉社)の著者でもある武正倫氏だ。
基本のうどんだからこそ、にかけうどんにはその土地の人柄が表れている。
「ルーツは諸説ありますが、古くから三河地方では、冠婚葬祭で煮しめを大量に作る文化がありました。行事の終盤、参列者に最後のもてなしとして振る舞われたのが、この煮しめを大胆に盛ったうどんでした。これが、現在のにかけうどんの原型になったと言われています」(前出のジャーナリスト)
大切な客に素うどんでは物足りない。具を乗せ、見た目を整え、一杯の中にもてなしを込める。にかけうどんには、こうした三河地方の義理堅い人柄が表れているという。武正氏は、うどんは単なる麺料理ではないと言う。
「うどんは、その土地の気候、産業、流通、人々の暮らしが反映された食べ物です。手軽な食べ物だからこそ、その地域の特徴が色濃く出てくるわけです。知名度では讃岐うどんが非常に高いですが、全国にはまだまだ知られていないうどん文化がたくさんあります。うどんは、地域の多様性を知ることができる非常に奥深い食文化だと思っています」
その一杯には、土地の記憶と人々の暮らしが練り込まれている。うどんは、まさにソウルフードの名にふさわしい食べ物だ。麺をすすれば、香りとともに地域の物語が立ち上がってくる──。《【前編】はこちらから》
武正倫(たけまさ・りん)
埼玉県加須市出身。元教員の経験を活かした軽快で分かりやすい語り口で、埼玉各地のうどん店や地域に根づくうどん文化を紹介するYouTubeチャンネル『埼玉うどん子TV』を運営。加須市観光大使も務める。著書に『誇るべき埼玉うどん26の物語』(双葉社)がある。
『埼玉うどん子TV』https://www.youtube.com/@saitamaudonkoTV