■専門家が解説 海外通販にトコジラミが潜む可能性とその「対策」

 海外通販を筆頭に、物流においてトコジラミが潜む可能性はどのぐらいあるのか。また、SNS上に出回っている“対策法”は本当に有効なのか。

 人と自然の博物館主任研究員で、兵庫県立大学准教授の山田量崇さんは、「データがあるわけではありませんが、トコジラミの習性や生態を考えると、流通過程で潜り込む可能性は少ないのかなと思います」と言う。なぜか。

「トコジラミは、人間のにおいや皮脂に誘引されるという報告があります。つまり、基本的に人を宿主とする。ですので、通販に紛れ込むとしたらダンボール箱など梱包されたものの外側というよりは、中に入り込む形だと思われます」(前同)

 人の気配がない倉庫やトラックの中において、外箱同士が触れることで生息が広がる可能性は低いということになるが、どのようにして“箱の中に入り込む”可能性があるのか。

「ダンボールや袋など、商品を詰める場所ですね。そういった作業場所にトコジラミが蔓延していれば、当然梱包する際に付着するでしょう。中に身を潜めたトコジラミは成虫なら絶食状態で運ばれることになる。開封したら腹ペコ状態のトコジラミに人が刺されるというわけです。

 周辺環境も大事です。トコジラミは人が主な宿主ですが、コウモリや犬・猫、鶏などといった動物でも発生している報告があります。倉庫周辺にそうした動物が当たり前にいるようだと、トコジラミが紛れ込まないとも限りません」(同)

 海外通販を利用し、受け取る際にトコジラミが心配ならどうすればいいのか。

「まずできることは、“目視”での確認です。成虫なら体長が5ミリほどあり、かつ集合性があるので、なるべく白い場所で開けるとわかりやすいと思います。衣類であればポケットのような狭い隙間も入念にチェックしましょう。

 もし見つけたら、隔離するしかありません。数が少なければ市販の殺虫剤を使用してみてもいいと思いますが、耐性をもつ種も現れているとのことなので厄介です」(同)

 煮沸や乾燥といった“トコジラミ対策”は有効なのか。

「トコジラミは熱に弱いので有効です。ただ煮沸はなかなか難しいですし、60度から70度のお湯で十分。洗濯も水で窒息して死ぬので、有用でしょう。洗えないものは布団乾燥機の使用やドライヤー、スチーマーなどで熱を当てるという対策が現実的だと思います」(前同)

 山田さんによれば、「忌避剤や殺虫剤もこうすれば安心というのがなく、個々人で気をつけるしかない」のがトコジラミ問題の難しさ。極力対策をとったうえで、もし刺されたら速やかに病院に行くと同時に、駆除業者に相談するのが良さそうだ。

山田量崇
人と自然の博物館主任研究員、兵庫県立大学准教授。【専門分野】系統分類学、昆虫学、多様性生物学
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科 博士後期課程修了。博士(農学)。
【著書】日本原色カメムシ図鑑第3巻(分担執筆)、日本昆虫目録第4巻(分担執筆)ほか

(2023年年12月4日公開)