■路地裏で野良犬に追い駆けられて…
テナントを既に確保しているとはいえ、異国の地で日本人がビジネスを始めようとしたら困難を極めるのは明らかだ。猪爪さんも例外ではなく開店準備はなかなか進まなかったという。
「工事中はほぼ毎日現場に行って、職人さんたちと話しながら店を作っていったんですけど、やっぱり日本の感覚とは全然違いました。窓ガラスを1枚つけるだけでも2週間くらいかかったり……。白く塗ってとお願いした壁が、翌日見たらなぜかグレーになっていることもありました」
業者を相手にクレームを入れるもグレーの壁を前に“いや、これは白だ”と言われ、心が折れかける日々。それでも、猪爪さんは熱心に相手を説得し続けた。
「自分の中では“こういうお店にしたい”っていうイメージがあったので、そこは妥協できませんでした。本当は去年の12月には開店するつもりだったんですけど、結局2か月くらい延びてしまいましたね」
こうして、今年の2月にようやく開店へとこぎつけた猪爪さん。しかし、試練は終わらない。
「ガーナでは停電や断水がけっこう頻繁にあるんですけど、営業初日にもいきなり停電したんです。仕方ないから厨房ではスタッフがスマホの明かりを頼りに麺を茹で、客席ではお客さんが携帯のライトで手元の丼を照らしながら食べていました。断水した日は歩いて5~10分のところまで行って水道の蛇口から容器に水を入れて店まで運びました」
スープの仕込み終わりに豚骨をゴミ箱へと捨てに行こうとしたら、匂いを嗅ぎつけた野良犬に路地裏を追い駆けまわされたこともあったという。それでも猪爪さんが、ラーメン作りにおいて妥協しなかった点がある。味だ。
「食材はガーナで手に入るものだけを使っています。豚骨はローカルのマーケットで仕入れて、調味料も中国系スーパーを何軒か回って自分で見て、選んで集めています。僕は現地の人に寄せた味にするんじゃなくって、日本で食べてもちゃんと通用する、本気の二郎系ラーメンを出したいんです」
ニューヨーカーを虜にしている一蘭もイギリスやフィリピンなど12もの国で店舗を展開する一風堂も足を踏み入れていない“ラーメン未開の地”アフリカ――。人口の70%以上をキリスト教徒が埋めるガーナでは、豚骨を使って猪爪さんが作るこん身の一杯が今、意外なほど多くの人に受け入れられているという。